「旅のはじまり」 — WSO2015年春ツアー シーズン・プログラムによせて —



木許さんプロフィール
今回のコンセプトは「旅のはじまり」。

代表の野口さんからそう伺って、プログラムにも「旅」を感じさせるような統一感を出したいと考えました。「旅」という言葉を広く捉えて、国から国へ旅する楽しみのみならず、たとえば旋律から旋律へと移ろって行く面白さを感じて頂けるようにしたい。そうした思考から、エデゥアルト・シュトラウスの「カルメン・カドリーユ」やバーンスタインの「キャンディード」序曲、そして杉浦邦弘さんの「はとぽっぽの世界旅行」などを取り上げてみました。特に「はとぽっぽの世界旅行」は、様々な作曲家のスタイルをユーモアいっぱいに紹介することが出来ると同時に、はとぽっぽのテーマを探しながら能動的に聞く体験を生み出すことが出来るという点で、ワクワクする時間を生み出せると思っています。

それにしても、「旅」という言葉からは本当に沢山のものがイメージされます。例えばそれは、訪れた土地の風景であり、食事であり、人であり、その土地の音楽であることでしょう。そしてその多くは、未知のものに「出会う」という経験と大きく関わっているものだと気付きます。ルーマニアの民謡を収集して作られたバルトークの「ルーマニア民俗舞曲」は、バルトークならではの「出会い」の面白さに満ちていて、一度耳にするとしばらく頭から離れないほどのインパクトを生み出せるのではないでしょうか。

「出会い」という点では、現地の音楽を演奏させて頂くということも欠かせません。これまでにも海外で指揮させて頂くたびに、素晴らしい現地の音楽に出会ってきました。今回の演奏会では、マニラでフィリピン・フォークソングメドレーを、カンボジアで二代前の国王でいらっしゃったNorodom Soramrith元国王の作曲されたLa Mer a Kdatを演奏させて頂く予定です。いずれも現地のオーケストラからご提案頂いた曲で、この曲を通じてどのような出会いが生まれるのか、とても楽しみにしています。

メインの曲にさせて頂いたのは、ボロディンの交響曲第二番です。ボロディンの交響曲第二番は、冒頭のあの印象的な旋律がラヴェルやセヴラックも所属していた芸術団体「アパッシュ」のテーマソングにされていたことで有名ですが、三楽章にはスラヴの吟遊詩人の歌が、四楽章は勇者達の響宴がイメージされているとも言います。楽器を持って旅するワールドシップ・オーケストラにとって、「吟遊詩人」というのはぴったりなイマージュであるように思われますし、マニラ、カンボジアともに、最終日の演奏会のステージが祝祭的な要素を帯びた場であることを鑑みればいっそう、今回のメインとさせて頂くのには相応しい曲だと感じました。ダウン・ボウで統一された弦楽器の動きは視覚的にも惹き付けられるものですし、ユニゾンで動くところも多い曲ですから、オーケストラならではの響きの迫力を味わって頂けることと思います。

「旅」というコンセプトで統一しながら、全てを通じて意識したのは、演奏会の場を共有する全員にとって忘れ難い記憶となるような曲を選ぶということでした。我々自身が楽器を携えて旅するのみならず、何よりも聴きに来て下さった方々を「旅」へと誘えるように。胸躍るリズムと心揺らす旋律の数々に支えられ、ワールドシップ・オーケストラの第一回が良き船出となることを願って止みません。

Worldship Orchestra 正指揮者 
木許 裕介