世界音楽人 file2. 農澤明大(ワールドシップオーケストラ・コンサートマスター)



[nextpage title=”アートマネジメントと出会う” ]

世界を舞台に音楽する“ワールドシップな人たち”の生き方を紹介するシリーズ「世界音楽人」
第2弾は、ワールドシップオケの副キャプテン、コンサートマスターの農澤明大です!

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奈良市出身。四方恭子、五十嵐由紀子の各氏に師事。大阪クラシック、ムジークフェスト奈良、ベップ・アートマンスなど多くのイベントに出演。国際音楽学生 フェスティバル2012日本選抜メンバー。また、フランス、イタリア、オーストリア、ドイツ、フィリピンなどで路上ライブを敢行、好評を博す。2011年 東日本大震災直後には友人らとチャリティーライブを二週間にわたって行い、約200万円を義援金として送る。2013年よりタリス室内合奏団コンサートマ スターに就任。2013年にはドイツにてBerliner städt Streicher、Orechester Berliner Musikfreundeの練習に参加。第40回奈良県新人演奏会に出演。UUUオーケストラ四期コンサートマスター。国内でも多くのオーケストラに賛助 として出演。現在はオーケストラを中心に後進の指導にあたるなど、関西を中心に精力的に活動中。第7回秋篠音楽堂室内楽フェスタにて聴衆賞受賞。第35回 国際口笛コンクールティーンエイジ部門全体2位入賞。奈良女子大学附属中等教育学校、相愛大学音楽学部音楽学科弦楽器専攻卒業。現在、神戸大学大学院国際 文化学研究科芸術文化論コース博士課程前期在学中。

Q. そもそも音楽との出会いは?

両親の影響もあって、僕は歩けるようになる前からピアノを弾いていました。母がピアノの先生で。幼稚園に、週に1度バイオリンを弾きに来ているおばちゃんがいて、それを聴いて「あれを僕もやりたい!」と両親にお願いしたのが、バイオリンを習うようになったきっかけです。

Q. 演奏家としてのキャリアではなく、今アウトリーチ活動に注力しているのには何がきっかけですか?

10581515_10203074471211714_470115218_n音楽大学で勉強している時は、プロオケに入ってプレイヤーとして人生を終えるのだと当たり前のように思っていました。(皆入れると思ってました。)その考えが変わったのは、大学にニューヨークフィルのティーチングアーティスト、デヴィッド・ワレスさんが講義に来てお話をしてくれた時です。

そもそも、日頃から僕は「クラシックを一人でも多くの人に聴いて欲しい、裾野を広げたい」と思っていました。そのためには子ども達にクラシックの楽しみ方を伝えるのが1番効果的だとワレスさんの話を聞いて気づいたんです。それも、ただ聴くのではなく、「主体的に聴く」方法を彼は伝えてくれました。

音大を卒業後、オーケストラによるアウトリーチや、アートマネジメント(注)を研究するために大学院に進学しました。
大学のアートマネジメント研究会として、「別府アートマンス」という九州でのイベントで、子どものためのバイオリンと口笛のコンサートを開催したんですが、そこで出会った当時UUUオーケストラ(WSO代表の野口が今年の9月まで主催していたフィリピン・セブ島での演奏ツアー)のメンバーだった子に「フィリピンで一緒に演奏してみませんか?」と声をかけられて。
直感的に「面白そう!」と思ったので、特に深く考えず、参加してみることにしました。

実際に現地に行って演奏をする中で、本物の、生のオーケストラを聴く機会が殆どない子ども達にとって、はじめて芸術性の高い芸術に触れることによる感動を伝えられたこと、そして奏者同士もすごく得るものが多いことを実感しました。
これは将来性のある活動だと思っていた時、野口からワールドシップを一緒に立ち上げようと誘われ、ジョインすることにしたんです。団体の運営スタッフ(理事)として、そしてオケの中ではコンマスとして関わっていきます。

(農澤注:アートマネジメントとは、よく誤解されていて、コンサートをプロデュースしてくれるんだよね!と言われるんですが、それも一つの仕事ではあると思いますが、芸術と社会をつなぐ仕組みを作る、もう少し大きな概念だと僕は認識しています。)

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[nextpage title=”音楽との接し方は千差万別” ]

Q. 音楽と世界というキーワードで、記憶に残っているエピソードはありますか?

10647611_10203074468371643_307063111_nイタリアのひろばで口笛を吹いたらパンをもらったこと、フランスの電車の中でアコーディオンおじさんと即興でハンガリー舞曲のコラボをしたこと、ドイツの駅で津軽海峡を弾いてたら駅員さんに止められたこと(笑)、色々ありますが。

ローム主宰の企画で、色んな国からの奏者が集まって演奏を創り上げるコンサートに参加したことがあるんですが、このときは音楽との向き合い方は文化によって違うのだと実感しました。例えばハンガリー人は、合奏の休憩明け、たばこを吸いに行くと時間通りに帰ってくることは絶対なくて、必ず10分遅刻してきます(笑)。これはちょっとおいおい、困っちゃうなと思うわけですね。反面、日本人は真面目で、休憩中もずっとさらってるでしょ。そうすると、今度はドイツ人にめっちゃ睨まれて。何でだろうと思うと、「休憩は休憩や!休め!」と(笑)。そんなメンツでなんだかんだ一つのコンサートを創り上げるっていうのはとても面白い経験でしたね。

イタリアや中国にオケの演奏旅行に行った時には、聴衆からの反応が日本とは違って、とても正直でした。あのウィーン楽友協会ホールでは、もちろん超高額の席もあるんですが、一方で実は500円の立ち見席もあります。ステータスに関係なく、その人の距離感で本物の音楽を楽しめる。

広島の人が地元球団の広島カープを応援するように、ヨーロッパでは地域のオーケストラを応援するのが当たり前。だからこそ、オーケストラも市民に還元しようという意識が強いし、市民もオーケストラを支えたいと思っている。日本の聴衆で、それぞれオーケストラの演奏や指揮者の細かな差異まで聴き取れる人がどれだけいるかっていうと、現状殆どいませんが、耳の肥えているヨーロッパの聴衆はとても反応が正直で、批判をされることも当たり前のようにあります。

ドイツでホームステイしていた時のホストファミリーはクラシックが大好きでした。週末には友だちと一緒に室内楽を楽しむ。人生の楽しみとして室内楽が空気のようにあって、僕なんて音大出てるのに、仕事以外の感覚で音楽と付き合うことがないなぁと。その時ハッとしました。

そんな体験を経て、「日本の中での音楽」への印象は?

特に日本の音大にいると、「超一流の演奏家になることを諦めるのはすなわち負け」的な考えというか風潮があって、それが日本での音楽の楽しみを狭めているように思えます。
僕は一応教員免許も持っているんですが、教員採用試験を受けると周りからは「農澤さん教師になんの?!」的な。教師はプロの音楽家を諦めたやつがなるもの、的発想です。

しかし、演奏家が教育者よりも優れていると一概に決めつけるのは違うと僕は思います。むしろ、一人でも多くの人が音楽を聴く環境を作ることには、自己満足で完結してしまう演奏よりもよほど価値があると思います。

とにかく、音楽との向き合い方は人それぞれですし、優劣はありません。
「ソリストを目指すこと=正義」な専門的な音楽教育は、昔と構造が全然変わりません。コンクール至上主義ってやつです。その結果、音大にいるのに心のなかでは音楽が嫌いな学生もいっぱいいるわけです。この負の連鎖を断ちたいなと。音大生が自分で「何のために音楽を学んでるのか」を考える文化を作らないと、危険だと思います。

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[nextpage title=”種を蒔く仕事をする” ]

Q. ぷーさんも、幼稚園にやってくるおばちゃんの演奏を聴いていたのがきっかけでバイオリンをはじめたように、生で見聴きする体験が、人生と音楽と関わりを作るスタートだと思います。ワールドシップでは、そのオケを見聴きするチャンスが日本よりさらに少ないアジアの子ども達にはじめてのコンサートを届けるわけですが、どんな時間を届けたいですか?

昔、地元の奈良駅前で、路上ライブをしていた時期があります。
その半年くらい後のある時、奈良でバイオリンを教えている先輩のところに、新しく男の子がバイオリンを習いにきたと聞きました。先輩が「なんで習いたいとおもったの?」と聞いたら、その子は「奈良駅前で弾いてるお兄ちゃんを見てやりたいと思った」と答えたそうで。ちょっとばかり駅前で演奏をしたことでも、種を蒔けたのがその時はとても嬉しかったです。

10814301_10203074471251715_190752667_nワールドシップでは、尚更「本物」を届けたいという気持ちが強いです。もし僕たちがしょうもない演奏を聴かせてしまったら、逆にそれが子ども達の人生で1度きりの体験になってしまう可能性すらあって。だからこそ、僕らは聴いている側が本当に楽しめる、感動する演奏を作るために、全力を尽くす必要があると思っています。

そのためには、想いの上に、やっぱり音程であったり、リズムであったり、ある程度形にしなくちゃいけません。僕らに出来るベストを尽くして、それをまとめあげていくためにも、コンマスとして自分も頑張りたいと思います。そこまでして初めて、その時だけの感動ではなくて、「僕もやってみたい!」という気持ちを抱かせることが出来ると思うので。

Q. 日本や海外で生演奏を届けた先に、子ども達にはどんな風に音楽と接していって欲しいと思っていますか?

僕は、楽器の専門家を増やしたいとは思っていません。

いま、日本で音楽系大学を卒業する人は年間8千人いるんですが、実際その殆どが、演奏だけでは食べられていないんですよね。
だからこそ「音楽を、生活を豊かにするものとして楽しんで聴き、接することが出来る人」、音楽の良き理解者の存在を増やしていきたいと思ってるんです。



Q. その意味で、ワールドシップオケに参加するというのは、自分の人生において音楽とどう接していくのかを見極めるとても良い経験になるよね!

そう思います!

 

ーインタビューを終えてー

「聴く力」を持つ人達は日々の生活をより豊なものにすることができるし、今演奏では生計を立てられていない音楽家たちがより社会に必要とされる。農澤はアウトリーチを通して、そんな音楽社会のWin-Winを目指しているんだなと感じます。(野口)

 

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奈良市出身。四方恭子、五十嵐由紀子の各氏に師事。大阪クラシック、ムジークフェスト奈良、ベップ・アートマンスなど多くのイベントに出演。国際音楽学生 フェスティバル2012日本選抜メンバー。また、フランス、イタリア、オーストリア、ドイツ、フィリピンなどで路上ライブを敢行、好評を博す。2011年 東日本大震災直後には友人らとチャリティーライブを二週間にわたって行い、約200万円を義援金として送る。2013年よりタリス室内合奏団コンサートマ スターに就任。2013年にはドイツにてBerliner städt Streicher、Orechester Berliner Musikfreundeの練習に参加。第40回奈良県新人演奏会に出演。UUUオーケストラ四期コンサートマスター。国内でも多くのオーケストラに賛助 として出演。現在はオーケストラを中心に後進の指導にあたるなど、関西を中心に精力的に活動中。第7回秋篠音楽堂室内楽フェスタにて聴衆賞受賞。第35回 国際口笛コンクールティーンエイジ部門全体2位入賞。奈良女子大学附属中等教育学校、相愛大学音楽学部音楽学科弦楽器専攻卒業。現在、神戸大学大学院国際 文化学研究科芸術文化論コース博士課程前期在学中。現在ワールドシップオーケストラ副代表、コンサートマスターを務める。

 

あなたもワールドシップオーケストラに参加しよう!

2015年の2月と3月、フィリピンとカンボジアそれぞれ9泊10日のツアーの中で、現地のオーケストラの共演ステージを創りあげ、数千人の子ども達にとっての「はじめてのコンサート」体験を届けます。

海外がはじめて?ブランクがある?心配要りません!日本中から集う仲間たちと、人生を変え、世界を響かせる旅をしよう!

少しでも心がワクワクしたあなたは、今すぐWSOのホームページをチェック!

http://world-ship.org/orchestra/

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