ご挨拶
農澤明大(代表)
「何のために音楽をしていますか?」と問われた時、皆さんはどのように答えますか?
音大を卒業した方、大学オケに所属する方、高校の吹奏楽で演奏して以来楽器に触れていない方、音楽との親しみ方は人それぞれですね。プロオケに入るために演奏をする方もいれば、趣味で自らの楽しみのために演奏をする方もいらっしゃいます。
では、ワールドシップオーケストラ(WSO)は何のために音楽をするか。私が思うに、WSOはオーケストラ音楽に親しみのない人や子どもたちに、本物の音楽を届けるために、世界に音楽を溢れさせるために活動しています。
それでは、本物の音楽とは何なのか?プロオケによる演奏のみが本物なのでしょうか。私は、プロ・アマという区別は関係ないと思います。ですが、東南アジアでは99%の子どもたちにとって、初めてのオーケストラ体験。私たちの演奏によって、オケは、生の音楽はこの程度なのかと見限られる可能性もあれば、一生心に残る可能性もある。芸術を介する感動体験は、深く心に刻まれ得るのです。
だからこそ、奏者全員が自分の責任を果たし、全力を尽くして努力し、そして情熱を持って演奏することが必要です。
私たちにはきっとそれだけの責任があります。
本物をつくり、届けたいと思う方。共に世界を響かせましょう。
農澤が語る「これまでとこれから」をコチラのインタビュー記事からご覧いただけます。
また、雑誌インタビューに答えた際の記事はこちら。
*NPO法人ワールドシップは、2014年11月に東京都に認可を受けた特定非営利活動法人です。
ワールドシップオーケストラは、NPO法人ワールドシップの主催事業です。
ワールドシップの活動
現在ワールドシップは以下の2つの活動に取り組んでいます。
ワールドシップオーケストラ(WSO)海外演奏プロジェクト
アジアの多くの国々では、子どもたちは芸術・情操教育を受ける機会に恵まれず、楽器の生演奏を見聴きしたことがありません。オーケストラ生演奏を目の前で届けることで、一人でも多くの子どもたちが音楽に関心を持ち、アンサンブル音楽教育を受けるきっかけをつくります。またプロジェクト中、数少ない現地のオーケストラとともに共演コンサートを作り上げることで、日本と海外の音楽家の密な国際交流、相互理解の場を創出しています。
海外ユースオーケストラ成長サポート活動
アジアでも、音楽教育の種が芽吹きつつあります。しかし各地の音楽教育団体は指導者や楽器、指導法、運営ノウハウといった、日本では当たり前に手に入るリソースが足りず課題に直面しています。
子どもたちがオーケストラを通してより良い教育を受けることが出来るよう、ワールドシップでは海外ユースオーケストラの成長を支援しています。
世界中で実証される、音楽のチカラ
世界が模範とする、ベネズエラの音楽教育プログラム「エル・システマ」
エル・システマは、ベネズエラで始まり、今や 37万人が通う無料のオーケストラ教室です。楽器を無料で貸与し、レッスン料は無料なので、貧困な家庭の子どもでも通えるシステムとなっています。
ベネズエラの貧困率は50%、世界平和度指数は128位で、殺人事件は日本の40倍以上、誘拐事件も日常的に起こる環境下では子どもたちは事件に巻き込まれたり、非行に走ってしまうリスクが高まります。そこで親たちは、エル・システマのオーケストラ教室に通わせるようになります。オーケストラへの参加経験は、単なる音楽教育でなく、人としての成長をも促します。実際に、エル・システマの生徒たちは、学校の成績が良く、問題行動が少ないことがわかっています。
ベネズエラでは、中高生の退学率は26%を超えますが、エル・システマ参加者に限ると6.9%まで下がります。エル・システマは単なるオーケストラ活動を超えて、社会が抱える問題の解決に貢献するために展開されている社会運動として、世界中から注目されています。
ベルリン・フィルの音楽監督、サイモン・ラトルは、「クラシック音楽の将来にとって、最も重要なことが起きているのはどこかと聞かれたら、私の答えは 決まっている。ベネズエラだ。」とまで述べています。実際にエル・システマの卒業生としては、楽団史上最年少の17歳にしてベルリン・フィルに入団したエディクソン・ルイスや、今や世界最高の指揮者の一人 として君臨しているグスターボ・ドゥダメルらがおり、音楽教育の成果としても世界最高水準と言えます。
幼少期のオーケストラ経験の意義
オーケストラの中で演奏をして自分を表現し、仲間の演奏を聴き、議論をすることで、仲間との信頼、連帯、美的・感性的コミュニケーションが生まれます。 また、仲間との比較により、自分の良さを認識し、個性を見出すことで自分を表現する力を高めることができます。
エル・システマの創始者であるアントニオ・アブレウ博士は、「オーケストラが子どもたちに与える意義は、喜びであり、モチベーションであり、チームワークであり、成功である。」と述べています。また、指揮者ドゥダメルは、「合奏には他者への思いやりと恊働という概念が必要なので、人として成長することに つながる。」と言っています。オーケストラは子どもたちに、規律と忍耐を覚えさせて生きるチカラを身につけさせ、未来への希望を与える場なのです。
国籍を超えたオーケストラ共演がもたらすインパクト
音楽に国境はありません。本当に素晴らしい演奏は、世界中の人の胸を揺さぶります。オーケストラは、音楽で人をつなげる力を持ちます。一つの音楽を作るための練習や議論、音を通したコミュニケーションは、奏者同士の文化を知る以上に、強く深いつながりを生みます。
ドラッカーの言葉を借りると、オーケストラの目的は、人と社会を変革することにあります。奏者同士がつながり、コミュニケーションを促進することで社会 の創造性を高め、より良い社会を生み出すことにもつながります。
エル・システマの掲げる「音楽立国」を超えた、「音楽立世界」の実現も、不可能ではないのかもしれません。音楽家という限られた人が文化的であるのではなく、市民一人一人が文化的存在として、人としての尊厳を保たれ、芸術を享受し、また創造していく社会を作るため、私たちは活動して行きます。
【参考文献】
中川幾郎『分権時代の自治体文化政策 ハコモノづくりから総合政策評価に向けて』勁草書房、2001年。
藤野一夫編『公共文化施設の公共性 運営・連携・哲学』水曜社、2011年。
小林真理・片山泰輔『アーツ・マネジメント概論 三訂版』水曜社、2009年。
ヘルベルト・ハフナー、市原和子訳『ベルリン・フィル~あるオーケストラの自伝~』春秋社、2009年。
平田オリザ『新しい広場をつくるー市民芸術概論綱要』岩波書店、2013年。
潮博恵『オーケストラは未来をつくる』アルテスパブリッシング、2012年。
池上淳編『文化政策入門』丸善ライブラリー、2001年。
A.グゼリミアン編『バレンボイム/サイード、音楽と社会』みすず書房、2004年。
山田真一『エル・システマ、音楽で貧困を救う、南米ベネズエラの社会政策』教育評論社、2008年。
山田真一『貧困社会からうまれた”奇跡の指揮者”—グスターボ・ドゥダメルとベネズエラの挑戦』ヤマハミュージックメディア、2011年。
トリシア・タンストール『世界でいちばん貧しくて美しいオーケストラ』東洋経済新報社、2013年。
ジョン・デューイ『経験としての芸術』晃洋書房、2010年。
山岸淳子『ドラッカーとオーケストラの組織論』PHP研究所、2013年。
砂田和道「クラシック音楽におけるアウトリーチ活動とそに関わる音楽家養成の課題」『文化経済学』第5巻、2006年。
基本情報
名称 | 特定非営利活動法人ワールドシップ(NPO法人ワールドシップ) |
設立 | 平成26年11月20日 |
所在地 | 東京都武蔵野市吉祥寺東町4-9-16 |
連絡先 | orchestra♪world-ship.org ♪を@にして送信してください。 |
代表者 | 農澤明大(理事長) |
主な活動 地域 |
フィリピン(マニラ)、カンボジア(プノンペン・シェムリアップ) |
主な練習 場所 |
東京・関西 |
メディア 掲載 |
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